カルティエを楽しみながら学ぶ
第二に、前取り上げたパッシブ運用(特定の株価指数に連動させるポートフォリオ運用)の拡大がある。
指数と運用成績が花離するトラッキング・エラーを回避するためには、業績不振企業の株式であっても保有し続ける必要が生じるのである。
これらの理由から、米国の巨大機関投資家は、次第に、不振企業の株式を売却して株主の地位から退出する代わりに、株主としての発言力を行使して会社経営に影響を与えようとする傾向を強めた。
そして、株主アクティビズムの急先鋒として広く知られるようになったのが、カリフォルニア州の公務員年金基金、カルパースである。
株主アクティビズムは、米国の年金が国際分散投資を積極化するとともに、欧州や日本へも広がっていった。
最近では、わが国の公的年金も議決権行使を通じて積極的にコーポレート・ガバナンスに関与する姿勢を強めている。
これを受けて、年金等から運用を受託する投資顧問会社も、自らの責任で議決権行使に係わる方針を打ち出している。
二○○三年三月には、厚生年金基金連合会が議決権行使に関する詳細なガイドラインを発表し、「三期連続赤字もしくは無配の場合には取締役の再任を支持しない」といった具体的な内容が注目を集めた。
もっとも、機関投資家による株主アクティビズムに対しては、そもそもカルパース等が主張する「望ましいガバナンス形態」をとれば本当に企業の経営成績が上向き、中長期的な株価上昇につながる。
ポレート・ガバナンス原則」を相次いで策定した。
会社法や証券法の内容が国によって異なるために、やむなく複数の原則が必要となったが、長期的に企業経営を危うくするおそれのある管理体制や経営方針を改めさせるために議決権を行使するという狙いは一貫している。
ここで注意を要するのは、株主としての権利を行使すると言っても、そうした行動の背景にはあくまで受託者責任があるという点である。
単に株主としての株式に対する所有権に基づいて権利を行使するのであれば、権利濫用にあたるような例外的ケースを除けば、勝手気ままに経営に対して物申すことが許される。
極論すれば、会社に対して、自分個人の趣味に合う事業への投資を採算を度外視して要求することも許されないとは限らない。
これに対して、機関投資家による議決権行使は、受託者としての義務を果たすという意味を持つため、常に受益者の利益となるように行使されなければならない。
つまり、中長期的に株価上昇につながるような形で議決権を行使する義務が課せられるのであるのかという疑問が残る。
議決権行使による圧力をかけられている企業経営者の間では、とりわけ疑問視する声が強い。
また、仮に、カルパースのような大手機関投資家による積極的行動が好ましい結果を生んでいたとしても、より規模の小さい機関の行動が同じような成果につながるのかという疑問もある。
しばしば、株主アクティビズムにおいて重要なのは、単に株主総会で経営陣の提案に反対票を投ずることではなく、経営陣と積極的に対話することだと言われる。
しかし、カルパースとの対話には前向きな経営者も、規模の小さい年金基金の主張には耳も貸さないということは十分にあり得るだろう。
株主アクティビズムの意義にやや疑問を呈したのは、実は、議決権の行使に大きなコストがかかるからである。
制度や仕組みの是非を判断する上では、常に、費用対効果を考えることが重要である。
無コストで株主権が行使できるのならば、仮に大した効果がなくともやるだけの意義はあるだろうが、現実には、議決権行使が時間的、費用的に難しいケースも少なくない。
例えば、九七頁の313は海外投資家が日本株の議決権を行使する際の仕組みを示したものである。
複雑で手間がかかることは一見して明らかだろう。
実際、このプロセスが災いして、議決権行使が間に合わなかったケースもある。
逆にわが国の機関投資家も、外国株は議決権を行使しようにも費用がかかりすぎると嘆いている。
問題が多いのは、クロスポーダーの議決権行使だけではない。
多くの企業が三月に本決算を迎え、六月に株主総会を開くわが国では、議決権の積極的な行使には、実務上少なからぬ困難が伴う。
総会の議案が固まっても、議案書の作成と送付の作業に相当の日数を要するため、投資家側が議案書を受け取ってから書面投票を有効に行うための期間は、二週間程度に過ぎない。
この期間内に多くの議案書を精査し、投票のための事務作業を完了することは容易でない。
時間の問題は企業側が総会招集通知の送付を前倒しにするよう努力することで若干改善するとしても、物理的な作業に要する費用は大きな課題として残る。
なにしろ誠実に議決権を行使するには、各社の議案内容、経営体制の現状などを熟知していなければならない。
そのためには、従来のファンド・マネジャーやアナリストとは異なる視点からの調査や情報分析が必要となる。
調査や実際の議決権行使手続きには、コンサルタントや代行業者を使うという手もあるが、それとて無料ではない。
そこで最近注目されているのが、電子メールを活用する株主総会のIT化である。
発行会社が招集通知・議案書を電磁的方法で株主へ送付し、専用のサイトを通じて投票を受け付けることで、議決権の行使が従来よりも容易になる。
また、企業側にとっても、紙ベースの作業負担やコストが軽減され、リアルタイムで議決権行使を受領・集計を知ることができ、総会運営データの管理ややりとりが効率化されるというメリットが予想される。
株主アクティビズムとは直接関係ないが、今後増加することが予想される個人投資家による株主権の行使を容易にすることで、定足数未達による総会の流会といった事態を防止するという効果も期待できる。
株主総会のIT化は、わが国では、商法改正により、二○○二年四月以降に開催される株主総会から可能となったが、実際にITを活用した企業はまだそれほど多くない。
二○○三年一月に公表された東証の「コーポレート・ガバナンスに関するアンケートの調査結果」をみても、株主総会のIT化を実施した会社は回答企業一三六三社のうち二六九社、今後の実施を決定あるいは実施を検討している企業も五五六社に留まる。
回答企業の四割は、IT化を検討すらしていないのである。
企業が株主総会のIT化にそれほど積極的になれない背景には、法律が施行されたばかりで、実務的な準備が追いつかず、不測の事故を回避したいという心理が働いているものと考えられる。
しかし、それ以上に、個人投資家を含む全ての株主がインターネットを利用できる環境にない以上、当面はIT活用を図っても、書面と電子の両方の事務フローが必要とされることへの負担感が強い。
また、システム稼働面において「株主なりすまし」といった不正行為をいかに防止するか、書面と電子の二重行使や操作ミスをいかに迅速に是正するかといった課題が残っているのも事実である。
一方、米国では、二○○三年一月、証券取引委員会(SEC)が、投資顧問業者や投資信託の運用会社に対して、議決権行使に係わる方針や行使結果の開示を求める規則を採択した。
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